スペイン出身の映画監督ルイス・ブニュエルは第2次大戦後、メキシコに渡り、リアリズムの傑作と呼ばれる作品を撮った。題名は『忘れられた人々』。スラム街に住む少年の悲劇を描き、メキシコの暗部を鋭くえぐった▼いつの時代も社会の片隅で暮らし、政治の日の光が当たらない人がいる。近年の米国にとってそれは白人労働者階級だった。2年前、トランプ氏は彼らを「忘れられた人々」と呼び、声を聴いた。圧倒的に支持され、大統領に当選した▼6日にあった中間選挙。今回はトランプ氏が敗れた。トランプ氏が社会の分断を拡大させたと非難した民主党が下院の多数派を奪還した▼民主党を押し上げたのは、「#MeToo」運動の女性、銃規制を求める若者、性的少数者(LGBT)、黒人や中南米系移民らの声。いずれも白人労働者やキリスト教福音派を重視するトランプ氏から忘れられようとした人々だった▼ただ、トランプ氏の支持基盤も相変わらず強固だった。社会の分断は一層拡大した。分断は世界に広がり、トランプ氏のように「自国第一」を掲げる政治家が各国で支持を集める。しかし、他人をおとしめて自分だけが幸せになろうとするような社会は、どう考えてもおかしい。この世に忘れられていい人など一人もいない。(2018.11.8)