5月の満月の夜。水中写真家中村卓哉さんは沖縄県名護市の辺野古沖の海底にいた。目撃したのはサンゴの一斉産卵。漆黒の海中にピンクの卵が次々放たれた。数百年、数千年続いた命が未来につながる瞬間。感動でシャッターが切れなかった▼中村さんは17年前から辺野古に通う。「埋め立て予定地の海にも必死に生きる命がある」。そんな思いでサンゴ礁や生物を撮影。9月に写真集『辺野古-海と森がつなぐ命』を出した▼世界に誇る豊かな「美(ちゅ)ら海(うみ)」の危機と言える。岩屋毅防衛相が米軍普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古移設に向け、14日に土砂投入を始める方針を示した。約260種の絶滅危惧種が生息する場所である▼先の沖縄県知事選では移設反対の民意が示された。民意を踏みにじることも、沖縄の海を死なすことも、政府にとっては簡単なのかもしれない。「沖縄の負担軽減のための唯一の方策」。判で押したように繰り返すだけで、「唯一」の理由について何も納得いく説明をしていない▼移設反対で座り込む人々が口ずさむ歌に、サザンオールスターズが沖縄について歌った『平和の琉歌』がある。「蒼(あお)いお月様が泣いております 未(いま)だ終わらぬ過去があります」。沖縄の美しい月と海はいつまで泣き続けなければいけないのだろうか。(2018.12.5)