「鯨を捕った船が港に帰ると、肉が家々に配られた。住民の仕事が捕鯨に連なっていた」。かつて三陸の捕鯨基地だった石巻市鮎川浜の人から聞いた。往時の人口が1万を超えた浜のにぎわいは、1987年の捕鯨禁止で途絶えた▼地元の鯨漁の歴史は江戸時代にさかのぼり、肉も伝統食だ。捕鯨禁止は国際捕鯨委員会(IWC)の決定。日本の大規模な南極海捕鯨が環境保護運動の強い欧米から非難の的にされ、禁止措置に沿岸の漁も巻き込まれた▼それから31年。政府は南極海と近海で数百頭の調査捕獲を続ける一方、持続可能な捕鯨の再開をIWC総会で求めてきた。支持する国も増えたが、禁止の壁は厚いままだ。ついに「日本、IWC脱退へ」とのニュースが流れた▼同じ沿岸捕鯨の歴史がある西日本の政治家らが脱退論を強め、政府は近海での再開案を検討中だと伝わる。やはり鮎川浜の捕鯨者たちも長年、伝統の漁の再開を訴えた。南極海が中心議題だったIWCの論争に声をかき消されながら▼鮎川浜は7年前、東日本大震災の津波で被災した。地元に残る住民は復興につながる捕鯨再開を願う。だが、町の繁栄を知る古参捕鯨者の多くは他界したり、他の町に移ったり。IWCの論争に翻弄(ほんろう)された人々に、朗報を伝えられる日はいつか。(2018.12.22)