第2次世界大戦中、日本の寺から鐘の音が消えた。資源不足に陥り、あらゆる金属が回収された。お国のため、鐘や仏像はたすきをかけられて出征。武器に姿を変えた。梵鐘(ぼんしょう)の9割が失われたという。欧州でも教会の鐘を材料に大砲が作られた▼鐘から武器を作るという流れを逆転させ、武器から鐘を作る美術家がいる。イラク出身のクルド人、ヒワ・Kさん。東日本大震災などの大惨事をテーマに、東京・森美術館で来月20日まで開催中の「カタストロフと美術のちから展」に『鐘』という作品を展示する▼材料はイラクで起きた戦争で使われた武器の残骸。多くは欧州から中東に輸出された。武器を溶かし、イタリアの工房で鐘を制作。表面に過激派組織「イスラム国」(IS)に破壊されたメソポタミア文明の装飾を施した。金色に輝く鐘は、戦争と平和、破壊と再生を繰り返してきたイラクの歴史そのものに見える▼きょうは大みそか。除夜の鐘が鳴り響く。「平和が達成される」との願いを込めて名付けられた平成時代が終わろうとしている。平和のありがたさをかみしめて聞く方もおられよう▼一方で、地震や豪雨で大切な人を失った方、いまだに先を見通せない東日本大震災の被災者が少なくない。そんな方々にも希望の鐘の音が届くといい。(2018.12.31)