負けたことがないアスリートはいない。負けを経験することによって成長し、強くなる。約3800校が出場する夏の全国高校野球選手権で最後まで勝つのは1校。その優勝校がどんなに強くてもいつかは負ける日が来る▼そうは思っても、この人が負けるとは信じられなかった。2016年、リオデジャネイロ五輪レスリング女子に出場した吉田沙保里選手(36)。五輪と世界選手権は16大会連続世界一、個人戦は206連勝中だった。しかし、決勝でまさかの敗戦。これが現役最後の試合となった▼吉田さんが引退を表明した。電光石火のタックルを武器に無敵を誇った。「人類最強」と異名を取ったロシアの男子選手の記録を超えたことで付いた愛称が「霊長類最強」。名実共にこれ以上強い選手はもう現れないような気がする▼日本国中が活躍を見守った。12年のロンドン五輪で3連覇を達成し、父親を肩車した場面では皆が笑った。リオ五輪で敗れ、マットに突っ伏したまま動かなくなった場面や、泣きじゃくって何度も「ごめんなさい」と謝った場面では一緒に泣いた。その勇姿に多くの国民が元気をもらった▼引退表明後の取材に対し、「第二の人生も明るく楽しく笑顔で頑張りたい」と答えたという。やはり吉田さんには笑顔がよく似合う。(2019.1.10)