「集落は8年前、津波と海岸林の流木で壊され、田畑はがれきに埋まった」。仙台市若林区井土を古里とする丹野明夫さん(69)は語る。集落の100世帯のうち再建されたのは8戸。だが実家の兄ら農家有志が農業法人を結成し特産のネギなどを復活させた▼元銀行員の丹野さんが農地を借り、野菜作りを始めたのは震災の翌年。「農業が面白くなり、今は40種類も育てている」。畑の一角に二つの池がある。「メダカの手作りビオトープ(生息場所)なんだ」▼昨年夏に生まれた1センチほどのメダカ約300匹が泳ぎ回る。「本来の環境を再生しようと、地元の土や水草を入れた」。飼うのは、宮城県内で絶滅危惧種に指定されるミナミメダカ。希少な生息地だった井土でも津波で絶滅したと思われていた▼その復活プロジェクトが市民の間に広がる。宮城教育大の研究者らが震災前、井土のメダカを偶然に調査で採取し、それを繁殖させる「里親」を募集。丹野さんもすぐに参加した。「ぜひ地元に戻したいと7匹から増やした」▼井土の農地は大型圃場に整備され、かつての水環境は消えた。が、震災で廃校になった小学校跡に公園が造られ、新しいすみかになる池もできる。「古里の象徴のような生き物。畑の片隅から、小さな復興を育てたい」(2019.3.15)