名取市の映画監督、宍戸大裕(だいすけ)さん(36)は東日本大震災の直後に東京から戻り、カメラを手に被災地の石巻や南相馬などを歩いた。撮ったのは猫、犬、牛。彼らも津波や原発事故で運命を変えられた被災者だった▼ペットを失った家族の人知れぬ悲しみ、奇跡的に生き延びた猫と交わる夫婦、原発事故で取り残された牛たちを飼う牧場主。同じ命の意味を問うた映画『犬と猫と人間と2』は2013年に劇場公開された▼片隅の「見えない風景」を映す作家の新作は『道草』。都内の春の公園で重度の自閉症の若者と介護者の男性がブランコをこぐ。そんな冒頭から、施設や病院を出て普通の生活に挑む人々、支える人々の山あり谷ありの日々が描かれる▼店のガラスを壊す、駅で女性の髪にさわる。寄り添う介護者たちが説教や笑い、励ましで苦い経験を新しい学びに変える。「撮影した2年間で若者たちも、その親も変わった」▼男性の1人は、3年前に神奈川県の施設で起きた入所者殺傷事件で、刺されて重傷を負った。両親は今、施設を出て自立に挑戦する息子の姿に「お互い親子で青春している」と笑う。「誰もが求めるのは共に生きてくれる仲間だ」と宍戸さん。思いを再び被災地に重ねる。『道草』は来月12日から仙台の「チネ・ラヴィータ」で。(2019.3.27)