昭和の日本画壇の寵児(ちょうじ)、横山操の代表作に「塔」がある。東京・谷中天王寺の五重塔が火事で焼失したと聞き、駆け付けてスケッチした。焼け残った骨組みを力強い黒の太線で描いた作品は生々しく迫力がある▼パリの観光名所で世界遺産のノートルダム寺院が火災に遭った。屋根は炎上し、高さ約90メートルの尖塔(せんとう)が焼け落ちた。完成は1345年。ナポレオンが皇帝の戴冠式を行い、ビクトル・ユゴーの小説「ノートルダム・ド・パリ」の舞台としても知られている▼石造のようにも見えるが、骨組みは木製で「森」と呼ばれるほどオーク材がふんだんに使われているという。当時は屋根の改修工事中だった。捜査当局は失火の疑いがあるとみて、作業員から事情を聴いている▼日本でも70年前、世界最古の木造建築物だった法隆寺金堂から出火し、国宝の壁画の大半が焼けた。衝撃は大きく、火事のあった1月26日は文化財防火デーになった。毎年、各地で消火訓練が行われているが、気持ちを一層引き締める必要があるだろう▼変わり果てた大聖堂を涙で見上げる市民の様子に心が痛む。修復には10~15年かかるとの見方もあるが、マクロン大統領は「5年以内の完了を目指す」と決意を述べた。支援の輪は世界に広がる。一日も早い再建を祈りたい。(2019.4.18)