作家の田辺聖子さんが医師の故・川野純夫さんに口説かれた時の言葉。「わしと結婚したらオモロイ小説書けまっせ。あんた大人を知らんから」。2人は大のおしゃべり好き。朝から晩まで話せると思い、結婚した▼どんな有能な男も家ではただのオッサン。田辺さんは結婚生活を性知識、容色の衰えとともに女の人生の三大ショックに挙げ、「女は結婚生活を通じ男の正体を知る」とエッセーに書いた。一方で「男ってなんていい生きものなんだろう」と思ったという。川野さんも「女もエラいんやなあ」と悟ったとか▼田辺さんが91歳で逝った。人生や男女の機微を描いた小説、川野さんが登場する「カモカのおっちゃん」シリーズなどの軽妙なエッセー…。作品はユーモアにあふれ、人生の本質を突いていた▼大阪に住み、大阪弁で書いた。重要なテーマが普通の男女の普通の恋愛。働く女性、老後を明るく生きる女性らを等身大で描いたからだろう。登場人物の生き方が今も共感を呼ぶ▼描き続けたのは、人の優しさ。「震災を知るたびに人間は優しくなったと後の人が言ってくれるようになれば、生きやすいし、どんな地震があっても怖がらなくて済むのでは」と著書につづった。目を閉じれば、「おせいさん」の人懐っこい笑顔が浮かんでくる。(2019.6.12)