シンガー・ソングライターの荒井由実(現松任谷由実)さんの名曲『卒業写真』は卒業シーズンの定番として知られる。哀愁を帯びた旋律に乗せ、卒業アルバムの「あの人」と過ごした青春時代を追想する▼デジタル時代になり写真をプリントする機会は減ったかもしれないが、どの家にも家族のアルバムがあるに違いない。東日本大震災で多くの写真が家屋と共に流された。各地でボランティアががれきから回収、修復し持ち主に返してきた▼被災自治体が後押ししてきたが、写真の返却会や展示場を訪れる人は下降線をたどった。やめたところも少なくない。だが陸前高田市や宮城県山元町のように、いったん終了しながら住民の根強い要望で再開した例もある▼震災からしばらくは悲しみに暮れ、生活再建で頭がいっぱい。やっと写真を捜す気持ちになった人がいる。国は震災10年を区切りに2021年度以降、自治体への補助を縮小する方針という。誰かを待つ写真が大量に残っているのに返却が続けられるかどうか▼荒井さんの曲は卒業写真の「あの人」に、私を時々遠くで叱ってと語り掛ける。震災から9年を迎えた。手元に戻った写真を見つめ、折れそうな心を奮い立たせる人もあろう。被災地に必要なのは防潮堤や道路だけではない。(2020.3.11)