欧米にその美しさを紹介した一人に、江戸時代の長崎・出島で活動したドイツ人医師シーボルトがいるという。日本で食用に栽培されていたが、明治から昭和初期にかけ観賞用に球根が盛んに輸出された▼ユリである。中でも王者とされるヤマユリは神奈川県の県花だ。その名を冠した相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、元職員の植松聖被告(30)に入所者ら19人が殺害され26人が重軽傷を負ったのは2016年7月。無抵抗の弱者を狙った事件は世を震撼(しんかん)させた▼植松被告にきのう、横浜地裁で死刑判決が言い渡された。残虐性からして当然と受け止める人が大半だろう。もっとも遺族は「極刑でも足りない」が本音ではないか▼植松被告は公判や報道陣の接見取材で、自分の考えを冗舌に語ってきた。「重度障害者を育てるのは間違い」「事件は社会に役立つ」。悔悟の情はみじんもなく、自らを正当化するばかり。極刑が下っても救いがない思いが残るのはこのためだ▼ユリの気高く無垢(むく)な姿に似た、家族にとってかけがえのない命が奪われた。特異な人物による特殊な事件だったと言えるのか。第2次大戦中のナチス・ドイツを挙げるまでもなく、生命に優劣をつける優生思想は歴史に刻まれている。共生とは何か。改めて考えたい。(2020.3.17)