元水戸藩主で隠居した徳川光圀が身分を隠して諸国を巡り、世直しをする。国民的時代劇と言われたテレビの長寿番組「水戸黄門」である。元は江戸時代後期の講談の題材にもなった創作物語だ▼クライマックスは、悪人一味との大立ち回りで供の侍が徳川家の葵(あおい)の紋が入った印籠をかざす場面。「この紋所が目に入らぬか」と一喝する。悪人は平伏し、視聴者は留飲を下げる▼宮城県涌谷町と福島県新地町できのう、小中学校が授業を再開した。新型コロナウイルスのまん延で安倍晋三首相が2月末、全国の小中高校に休校を求めてから東北で再開したのは初めてという。感染の危険性はゼロではない。葛藤もあったに違いない▼首相の要請は法の根拠がなく、従うかどうかは自治体の判断による。感染者がいなかった島根県は最初から休校していない。静岡市などのように、いったん休校しながら感染状況を踏まえて再開した自治体も出始めていた▼休校の継続は無難と言えば無難。国の要請だからと言い訳も立つ。だが、子どもの学習は遅れ、預かる保護者に負担がかかる。東北で休校しなければならない学校は多いとは思えない。功罪を考えて判断しているのかどうか。印籠を見せられて「ははーっ」とひれ伏すだけであれば、地方分権の名が泣く。(2020.3.19)