気に入っている絵や彫刻に会いたくて、時々、宮城県美術館(仙台市青葉区)を訪ねる。最初に足が向くのは、館の看板猫がいる常設展示室。額の中、無防備な姿で眠るキジトラは、函館出身の洋画家長谷川〓二郎(りんじろう)の愛猫である▼絵の前で、母親に抱かれた幼い女の子が、ニコーッと笑うのを見たことがある。この猫の分身が本館に隣接する佐藤忠良記念館の受付に置いてある。素材は広瀬川から拾ってきた細長い河原石。それに、練達の学芸員が毛並みと目鼻を描いた。「評判いいんですよ」と、受付の女性がほほ笑む▼舟越保武の彫刻「原の城」は、島原の乱で没したキリシタン武者の像。広瀬川を見下ろす北庭に、なぜか西を向いて立っている。ある夕、像の前で息をのんだ。武者は炎に包まれていた。丘陵から差し込む赤陽が、乱の一場面を現出させたように思えた▼宮城県美術館の移転論が行政側から起きている。なるほど、館の外壁は汚れ、展示室のクロスも古びてきた。面目にかけて素晴らしい新施設を造るというのだ。でも…▼現在の県美術館は、身近な自然を生かした教育活動や、風景と響き合う作品展示ができる希有(けう)な環境にある。美術を五感で味わえる施設が移転先で実現できるのか、どうか。議論すべき事柄は他にもいろいろある。(2020.3.22)

(注)〓は隣のへんがサンズイ