小津安二郎監督の映画には、俳句をたしなんだせいもあってか、季節を感じさせる題名が多い。『晩春』『麦秋』『早春』『彼岸花』『秋日和』-。遺作となった『秋刀魚(さんま)の味』もそう。でも、作品にサンマは出てこない▼娘の結婚を巡る父親と娘の関係を軸に、父親の老いや孤独を描いたことから、サンマをはらわたまで食した時のほろ苦さを人生に例えたとみることもできる。だが、本人は公開前に「他意はない。庶民的ということ」と述べている▼小津監督の好物でもあった秋の味覚は、今年も食卓に上る機会が減るかもしれない。本州一の水揚げを誇る大船渡市魚市場の初水揚げは4トンで、前年の23トンの2割以下にとどまった。入札では1キロ当たり3250円と、前年の初水揚げ時の3倍超となる高値がついた。これでは、庶民的な魚とはとても言えない▼近年続く不漁は、資源量が減っていることに加え、海洋環境の変化などから、日本の周辺に回遊してくるサンマが少ないためだとされる。今年の漁獲量は昨年をさらに下回る可能性が高いという。脂の乗り具合がどの程度かも気になるところだ▼不漁にコロナ禍。今年のサンマのはらわたの味は、一段とほろ苦いものになりそうだ。もっとも、冷凍物以外を口にする機会があればの話だが。(2020.9.3)