戦前の帝国議会の時代、衆議院は「日比谷座」と呼ばれることがあったという。映画館や劇場の名前を模した呼び名だ。つまり、映画や芝居を見るように、議場の傍聴に出掛ける人が結構多くいたらしい▼傍聴券を高く転売するいわゆる「ダフ屋」までいたと、衆院事務総長を務めた向大野新治さんの著書『議会学』にある。議場の混乱を見に人が集まったのかもしれない。演説や丁々発止の議論を聞きに集まったのかもしれない▼自民党総裁選の日程が決まり、候補者の顔ぶれが固まった。「緊急を要する」という理由で、全国一斉の党員・党友投票は行わずに総裁を選ぶ。何とも、もやもやした感じが残るのは、投票を期待していた党員だけではないだろう▼有権者の目の届かない所で、派閥の都合によって国のリーダーが選ばれる。遠い昭和の時代を思い出さずにはいられない。「日比谷座」とまでは言わないけれど、候補者が政策を競い合い、すっきりした形で選んでほしいのだが▼湯沢市郊外で生まれ育った最有力の菅義偉官房長官は、たたき上げの半生が光る。苦労人ならではの政策、新味のある提言…。記者会見で語った安倍政権の取り組みの継承だけでは、物足りなさもある。他の候補との丁々発止のやりとりが聞けないものだろうか。(2020.9.4)