「どっどど どどうど どどうどどどう」。宮沢賢治が『風の又三郎』で表現した風の音は不思議な韻を踏む。季節風が強いからだろう、風を巡る東北人の記憶は峻厳(しゅんげん)で雪とも混じり合う。防風林、防砂林が先人の労苦をしのばせる▼発想の転換には違いない。秋田県沿岸で洋上風力発電の事業計画が動きだした。国が指定した促進5海域のうち、3海域が秋田県沖というから、地元では「利風」への期待がいやが上にも高まる▼ドイツでは今年上半期の発電量に占める再生可能エネルギーの割合が、55.8%と過去最高を記録した。風力発電が30.6%で最多。景観や騒音面で制約が少ない洋上が有望株だ。地勢や気候が違うとはいえ、わが国の再エネ比率は約18%にとどまる▼「風車があれば電気をつくれる。暗闇と空腹から解放される」。14歳、独学で風力発電機を造ったアフリカ・マラウイのウィリアム・カムクワンバさんが『風をつかまえた少年』に書いている。再エネは地域に雇用と経済成長をもたらす▼「風車が雲を吹き飛ばし飢饉(ききん)を招いている」。意外にも少年を最も苦しめたのは地域民の迷信だった。思い込みは現代にも。国は化石燃料と原発に依存した電源構成にこだわる。風穴を開ける使命を載せ、やがて風車がどっどど回る。(2020.9.5)