沸かしたばかりの風呂の表面は熱く、下はぬるい。水は温めると膨張するため、単位体積当たりの重さを比較すると熱くなったお湯は軽くなって上に行くからだ。「湯かき棒」でかき混ぜると、いい湯加減になる▼広大な海も、かき混ぜれば海面水温は下がる。最大級の警戒が呼び掛けられた台風10号は特別警報が出される可能性があったものの、九州に近づくにつれて勢力が若干衰えた。これは、約1週間前に似たルートをたどった台風9号が湯かき棒の役割を果たしたためだという▼30度を超えていた日本の南の海面水温は、台風9号の通過によって、海中の比較的冷たい海水が海面に持ち上げられた。その結果、台風を発達させる水蒸気や熱の供給が減り、勢力の発達が抑えられた▼台風10号は死者・行方不明者やけが人が出たほか、建物の損壊、広範囲の停電などの大きな爪痕を残した。早めに避難する人が多かった一方で、コロナ禍の避難で定員に達する避難所が出るなど運営面の課題も残した▼台風10号の進路がもう少し東寄りだったら、被害はもっと甚大になっていた。台風9号が海面水温を下げたのも偶然にすぎない。地球温暖化を放置すれば、最大風速65メートル以上の「スーパー台風」が、日本列島を直撃することも現実味を帯びてくる。(2020.9.10)