「世の中は底の知れないものだから、まず人を見たら泥棒と思えと、昔の人の言ったうめえ言葉を忘れぬことだよ」。勝海舟の父小吉の生涯を描いた子母沢寛の小説『おとこ鷹』に出てくる▼「人を見たら泥棒と思え」ということわざは、昔から使われてきたらしい。英語にも同様の意味の表現があり、軽々に人を信じるなという教えは万国共通なのだろう。昨今は「メールを見たら詐欺だと思え」と言い換えて応用できそう▼NTTドコモの電子マネー決済サービス「ドコモ口座」を悪用し、銀行口座から預金を不正に引き出す事件が明るみに出た。被害の詳細は不明だが、ドコモ口座と連携する各行はチャージ(入金)を当面停止する措置を取った▼どんな手口で引き出したのだろう。今のところ、銀行のシステムからの流出ではなく、利用者をメールなどで偽サイトに誘導して、情報を盗む「フィッシング」ではないかという。ちょっとでも怪しげなメールは、取り合わないのが一番▼フィッシング詐欺の名は釣りのFISHINGから生まれ、しかし、つづりはなぜかPHISHING。近年の新語なのに、来歴はもう分からない。ネットの世界は、変化が急で激しい証拠なのだろう。冒頭の言葉を借りれば、底の知れない世界なのかもしれない。(2020.9.11)