訪れた好機を逃してはならない時に、「チャンスの神は前髪しかない」と言うことがある。ギリシャ神話に登場する好機をつかさどる男性神「カイロス」の彫像に、長い前髪しかないのが由来だという▼菅義偉官房長官は目の前の前髪をつかむために何度か勝負に出た。最初は、政界入りの端緒となった横浜市議選。ある市議の後継になる予定だったが、その市議が突然引退を撤回。4年後を目指せとの周囲の声を振り切り、徒手空拳で選挙の準備に入った▼そして、安倍晋三首相の退陣表明を受けた今回の自民党総裁選。行動は機を見るに敏だった。きのうの両院議員総会で新総裁に選ばれ、あすの臨時国会で第99代首相に選出される。湯沢市生まれで、秋田県出身者の首相は初となる▼農家の長男ながら後を継がず、高校卒業後に上京して段ボール工場に就職。その後、法政大で学んだ。盛んだった学生運動には目もくれず、生活のためにさまざまなアルバイトに精を出した。2世や3世が幅を利かす国会の中で、今や珍しいたたき上げだ▼総裁の任期は来年9月までだが、本格政権を視野に入れているとの見方が専ら。早くも解散総選挙が取り沙汰されている。国民の声に耳を澄ました上で時期を判断しないと、前髪をつかみ損ねるかもしれない。(2020.9.15)