何発もパンチをもらい、まぶたを大きく腫らしながらも、懸命に立ち向かっていく姿が目に焼き付く。プロボクシングの元世界3階級制覇王者、北上市出身の八重樫東(あきら)選手(37)。9月1日、15年にわたる現役生活に終止符を打った▼一番の思い出に挙げたのは2014年のローマン・ゴンザレス戦。あまりの強さに誰もが対戦を避ける中、王者として受けて立った。命の危険を感じ、生命保険の額を上げて臨んだ覚悟の一戦だったという▼結果は9回TKO負け。だが、試合が終わっても大声援は収まらなかった。打たれたら打ち返す、彼らしさを貫いたからだ。試合後の言葉にもぐっときた。「自分の試合を見たいという人がいる限り、何度でも立ち上がる」▼12年の井岡一翔(かずと)戦もボクシング史に残る名勝負。世界初挑戦から4年、ようやく手にしたタイトルだというのに、初防衛戦として他団体王者との統一戦に挑んだ。壮絶な闘いの末に判定で敗れたものの、強さを求める真っすぐな姿勢がファンを引き付けた▼「逃げない、投げない、諦めない」。心に刻んだ言葉は最後まで色あせなかった。世界戦8勝6敗。「誇れるのは、世界王者になれたことではなく、負けても立ち上がってきたこと」。記録にも記憶にも残る「激闘王」がリングを下りた。(2020.9.22)