山頂からは太平洋を望むことができた。途中の清水でのどを潤せた。福島県大熊町にある標高600メートルほどの日隠山は気軽に登山が楽しめた。山開きの日はにぎわい、町民の憩いの場、心のよりどころだった▼東京電力福島第1原発事故に伴う町の避難指示は一部で解除されたが、山間部の除染は進まず登山道は閉鎖が続く。「元気なうちに登ってまた海が見たい」。会津若松市に避難する町民有志による舞台「絵おと芝居」の一場面。取り戻せない古里を回想するせりふが心に刺さる▼2018年に始まった県内外での公演は先日、郡山市で4回目を迎えた。受け入れてくれた会津への感謝、避難体験、今の心境を歌や踊り、紙芝居で伝える。町の復興に合わせて、せりふやナレーションはその都度改めるが、日隠山のように変わらない現実は重い▼菅義偉内閣が誕生した。最優先課題に挙げるのは新型コロナ対策。東日本大震災や原発事故からの復興は? 菅首相には被災地の「明暗」両面を見てほしい。それが被災地の願いだ▼震災10年目で既に9人目の復興相、平沢勝栄氏に望むことも同じ。「被災者に寄り添って」と言いながら、何をしたのか思い出せない大臣もいた。もっとも菅首相が被災地に足を運ぶ間もなく、解散風が吹き荒れるのは勘弁だ。(2020.9.23)