「権利の上に眠るな」。戦前、婦人参政権実現に尽くした故市川房枝さんが残した言葉だ。苦労して手中にした権利でも、使いこなし磨かなければ水泡に帰す。自らの経験から紡ぎ出した後進への忠告でもあった▼女子テニスの大坂なおみ選手が米誌タイムの「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。全米オープンで、白人警官らに殺害された黒人の名を記したマスクを着け人種差別に抗議した。市川さんの箴言(しんげん)通り人権も主張し続けなければ、ただのお題目▼「私はアスリートである前に黒人女性」というツイートに、強い覚悟がにじむ。大坂選手の行動や言動が共感を呼んだのは人種や国籍などの属性を軽々と乗り越え、当事者として表現し切ったからだ▼「100人」には、自らの性暴力被害を公表したジャーナリスト伊藤詩織さんの名も。「勇気ある告発」で日本人女性の在り方を大きく変えたと評価された。セクハラに泣き寝入りは「眠る」と同義語だ▼影響力で、世界が師表とすべき日本人が女性2人という現実。男女平等の世界ランキングは最低レベルなのに。「あなたはどんなメッセージを受け取りましたか」。マスクの意味を問われた大坂選手がこう問い返したように、選考結果は女性活躍という別の宿題も投げ掛けている。(2020.9.27)