「君、花はなぜ美しいか」。建築家の中田準一さんは師である前川国男に問われて、答えに窮したと著書に書いている。しばらくたってから「それは、自らの責任でそこにあるからだよ」と教えてくれたという▼建築物は特定の敷地を前提に設計される。そこで建築家は、整合性ある全体のバランスを一番に考える。花は全てがバランスよく自らの責任で存在しているが故に美しい…。やや分かりにくいが、そんなふうに中田さんは解釈した▼前川が手掛けた建築物の多くは、木々の間に見え隠れし、周辺のたたずまいに同化している。周囲の情景を取り込む設計に意を用いているからだ。歳月を重ねるほど環境に一体化していくのが前川建築の最大の特色だという▼晩年の前川が設計した宮城県美術館も同じだろう。緑豊かな自然の中にある伸びやかな建物は、来館者にとって安らぎのある空間だ。これまで通り、美術館として存続することが決まって胸をなで下ろしている人は多いに違いない▼美術館に行くのは展示物を見るだけではない。建築そのものも鑑賞の対象となる芸術作品。設計者が意図したもの、現代建築における意義、他の作品や略歴-。鑑賞のガイドとなるせめてパンフレットでもあれば、この美術館に対する理解はもっと深まる。(2020.11.18)