ウルシの木の森で「漆かき」の仕事が始まるのは新緑の6月。職人たちに聞くと、口々に「鼻をくすぐる甘い、いい香り」と話すそうだ。二戸市で漆器を製造販売している「滴生舎」のパンフレットにそうある▼漆カンナで樹皮をやや斜めに一文字に削る。この傷から甘い香りの乳白色の樹液がにじむ。これをかき集めたものが漆。幹に付ける傷が深すぎれば木が枯れるし、浅ければ樹液が出にくい。熟練の技が漆かき職人には必要だ▼国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に「伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術」が登録される。全国から24の保存団体が選ばれ、この中に二戸市の「日本うるし掻(か)き技術保存会」もある▼国内で使う漆は中国産などが占め、国産はたった5%ほど。その7割が二戸市とその周辺で取れる「浄法寺漆」。塗る際の伸びの良さなど品質は国産が群を抜き、国宝をはじめとする文化財の修復には、浄法寺漆が使われている▼漆芸家の松田権六著『うるしの話』によると、漆の語源は「うるわし」、あるいは「うるおす」から-など諸説あるという。湿潤で日当たりと風通しがよいうるわしい山がウルシの木の適地。その適地の浄法寺では若い世代の後継者たちが育っているというから心強い。(2020.11.20)