<戦って、闘って、争って…/勝利だけにこだわりすぎた僕に気付いたとき/生きるとは、勝つだけではなくて/負けることも生きるということ>。谷川俊太郎さんが編集人を務めた詩集『生きる』第2章から引いた▼スポーツにせよ、受験にせよ、裁判にせよ、負けは受け入れ難い。人生の難所で人は挫折感、無力感にさいなまれる。だが、この人の場合は特異な反応を示す。トランプ米大統領が依然として大統領選の敗北を認めず、政権移行手続きにも支障が出ている▼バイデンさんと全米を二分して覇を争った。しかも、票差はわずか。じだんだを踏みたくなる気持ちは痛いほど分かる。熱狂的な支持者向けに、得意のマッチョなポーズを取り続ける必要にも迫られているのだろう▼不正を示す証拠もないのに選挙無効の裁判を起こしたり、意に沿わない政府高官を解任したり。白旗を揚げるタイミングを逸し、米国第一主義転じて「自分第一主義」が鮮明になってきた▼哲学者の故鶴見俊輔さんが『敗北力』という著書を残している。「敗北力は、どういう条件を満たすときに自分が敗北するかの認識と、その敗北をどのように受けとめるかの気構えから成る」。負けの原因を直視し、従容として野に下るべし。わざわざ晩節を汚すことはない。(2020.11.23)