新人記者として青森総局に配属された24年前、取材のたびに法律や社会の仕組みを丁寧に説いてくれる人がいた。地検弘前支部の検事で、個人的に親しみを込め「弘前の黒川さん」と呼んでいた。

 横領と背任の違いといった基礎知識はもちろん、法益という言葉を初めて聞いたのも、この人からだった。法律書など読んだことのない新人記者に、法益と法が骨組みとなって形作られる社会、国という概念を、認識させてくれた。

 先月、賭けマージャンで辞職した検事長の姓も黒川だが、別人と信じて疑わなかった。ただ、「弘前の黒川さん」の名も思い出せない。当時の記事を検索すると「弘前支部長 黒川弘務」とある。

 記憶とは不思議なもので、忘れていた容貌もよみがえった。その面影が、コロナ禍で撮影された姿と重なる。関係者に最終確認はできるが、気が進まない。同姓同名の別人であってほしいと、まだ願っている。
(報道部・中村洋介)