「わしは丹波篠山の生まれや」で始まる11月20日の朝刊「河北春秋」は、私たちに多くの警鐘を鳴らしてくれている。
 京文化の影響を残す城下町・篠山市は2015年に、民謡・デカンショ節を語り継ぐ活動などで文化庁の「日本遺産」に第1陣として認定された。その街が住民投票で市名を「丹波篠山市」に変更することを決めた。背景には観光や特産物、その名称を巡って近隣市とせめぎ合いがあったと聞く。
 春秋は「地方の人口減の時代、他の街はライバルだ。(中略)国の地方創生の交付金で今、どの自治体も地元をPRする動画作りに忙しい。観光地をドラマ仕立てで紹介したり、地味な土地を面白おかしく伝えたり、ネットでの視聴数を競う。話題と客を呼べば成果だろうが、本当の地元の魅力は何か、見失われそうで気がかりだ」と結んでいる。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)は29日、日本に昔から伝わる8県10件から成る伝統行事「来訪神 仮面・仮装の神々」を無形文化遺産に登録すると決定した。翌30日の朝刊1面で報じられた。
 東北からは大船渡市「吉浜のスネカ」、登米市「米川の水かぶり」、男鹿市「男鹿のナマハゲ」、山形県遊佐町「遊佐の小正月行事」が含まれる。いずれも、寒さが厳しい年末から2月にかけて行われてきた地域の伝統行事であり、近年は、後継者不足をはじめ、地域社会が変化する中でも、綿々と伝承されてきたものである。
 無形文化遺産には、日本を代表する伝統文化である能楽、人形浄瑠璃文楽、歌舞伎などが登録済みだ。09年には、花巻市「早池峰神楽」、仙台市「秋保の田植踊」が登録されており、今回東北から新たに4件加わることは、東北の地域力と文化の奥深さを物語る。
 ユネスコの決議は、来訪神行事は家族の絆を強め、子どもが地域の伝統に敬意を深めるなど重要な役割を果たしていると強調。さらに地域文化の多様性を示し、十分な保護措置も取られていると高く評したという。同日の社会面では観光行事にしないで地域と共にこれまで通り伝承に努める考えや、観光PRと異なる本物のナマハゲ文化を知ってもらうための体験ツアーの企画といった地元からのさまざまな声を取り上げている。

 今回登録される地域は「本物」の伝統行事を大切に保存、伝承してきた。これを契機に、東北の宝である無形文化財や伝統行事が、地域振興や観光振興の、さらなる力になっていくことが重要だ。自分たちが住んでいる地域コミュニティーや伝統文化の在り方を再確認し、情報発信力を強化すべきである。国際化が進み生活様式や観光・旅行スタイルは「十人一色」から「十人十色」、「一人十色」の時代になってきている。
 「河北春秋」の視点とユネスコ登録に関する記事は情報発信の在り方、地域の在り方について再認識を促す。伝統行事とそれを支える地域の人たちの活動を紹介し支援することは、地域に密着した本紙が果たす、大切な役割である。