7月の参院選において、全国で最も激戦とされた宮城選挙区では、新人の石垣のり子氏が現職の愛知治郎氏を僅差で破り、初当選を果たした。出馬表明からほんの2カ月半足らずだった石垣氏の勝因にはさまざまなものがあろう。

 本紙7月22日朝刊20面の「石垣氏浸透 激戦制す」は、石垣陣営が草の根型の選挙戦を徹底して無党派層や政権批判票を取り込んだ一方、愛知陣営は組織選挙が十分に機能しなかったことを指摘している。筆者は、自民党から1次産業票の一部が離反したことも大きかったと思う。安倍内閣は、農業では減反廃止や農協改革を、漁業では漁業法の大改正を、というように、東北の1次産業従事者に改革の負担を強いてきた。東北での与党の苦戦は、「農漁業県からの異議申し立て」とみなせるのではないか。

 もし、衆議院の解散総選挙が2021年3月までに行われなければ、今回の参院選が復興・創生期間中に行われた最後の国政選挙となる。そう考えると、被災地にとって、今回の参院選はポスト復興を論じる重要な選挙だったはずである。しかし、ポスト復興に関する舌戦があったようには見えなかった。「復興の完遂」など勇ましい言葉は聞こえてきたが、響く言葉は極めて少なかったと思う。

 被災地の復興格差が発生し、被災者の支援ニーズが多様化している中で、公約に掲げにくいところはあったろう。しかし、8月2日朝刊1面「復興庁存続 格下げ感回避『既定路線』 自民、今春に方向性」によれば、争点化回避の観点から与党はあえて選挙戦で語らなかった節もある。選挙という場で論戦をせずに先送りする姿勢はいかがなものか、と思った読者は少なくないのではないか。

 過去の研究成果から、新聞やテレビには「選挙の際、今、大事な争点が何であるか」を認識させる力があることがわかっている。選挙期間中、本紙が復興に関わる課題をもっと積極的に報道し世論を喚起していれば、ポスト復興論戦を促せたのではないか。

 7月26日朝刊3面の「災害公営住宅家賃増 子育て世代退去相次ぐ 低所得向け、制度の限界」や、30日朝刊1面の「災害援護資金 借り主死亡後の回収苦慮 市町村、相続人特定や連絡で忙殺」は、選挙期間中に報道されるべきものだったと思う。本紙は7月9日朝刊みやぎ面の「∧参院選宮城∨選挙区立候補者アンケート(上)」などで、接戦を演じた石垣、愛知両氏の主張の対比をわかりやすく伝えていただけに、やや残念である。

 東日本大震災の影響によって、被災3県の地方選挙はこれからが本番である。各県議選や仙台市議選は、選挙制度の特質上、各候補者の主張を細かく伝えることは難しい。しかし、これらの選挙において「何が問われるべきで、各候補者がその争点についてどのような立場であるか」について候補者に問い、有権者に伝えることはできる。今秋の被災地の地方選挙で本紙がどのような争点に注目し報道をするのか、期待したい。

[かわむら・かずのり氏]1971年、静岡県焼津市生まれ。慶応大大学院博士課程単位取得。慶応大専任講師(有期)、金沢大助教授を経て、現職。専攻は政治学。近著に「被災地選挙の諸相 現職落選ドミノの衝撃から2016年参議院選挙まで」(共著)など。仙台市若林区在住。