北朝鮮の建国70年記念日の祝賀行事は、9日の軍事パレードで大陸間弾頭ミサイル(ICBM)を示威することなく終わった。米国や日韓を刺激しない配慮に映る。
 トランプ米大統領は早速ツイッターで「非常に前向きな意思表示だ」と反応した。
 しかし抑制的な北朝鮮の姿勢が、停滞した米朝の非核化交渉を前に進める転機になるのかは見通せない。
 金正恩朝鮮労働党委員長自身の演説もなかった。核開発凍結の方針は一切語らず、むしろ対米交渉に向け隙のない戦略性すらうかがわせた。
 経済強化に注力する新路線を目指すなら、非核化のプロセスを誠実に歩むべきだ。
 非核化を巡っては金氏が先日、「トランプ氏の1期目の任期(2021年1月)が終わるまでに実現したい」と、文在寅韓国大統領が派遣した特使団に語った。
 「米朝間の敵対の歴史清算とともに」との条件付きとはいえ、達成期限を示したのは初めてで、トランプ氏はここでも高い評価で歓迎した。
 同じ腹芸の繰り返しである。6月の米朝首脳会談の開催を巡っても両国は、中止、再設定でドタバタ劇を演じた。
 その場の駆け引きや思い込みで進めたトップ外交の結果、米朝会談は非核化の詰めを欠いた「骨抜き合意」に甘んじてしまった。同じ轍(てつ)を踏んではなるまい。
 「敵対の歴史清算」とは朝鮮戦争の終戦宣言採択を指す。米国や日本が譲らない完全非核化の実行との優先順位争いに恐らく着地点はない。
 休戦から65年となる朝鮮半島の平和構築は米朝共同声明の柱の一つ。トランプ氏が一時「朝鮮戦争を終結させて北朝鮮の安全を保証する用意がある」などと発言し、周囲の「ノーベル平和賞」の声に浮かれていたのも事実だ。
 北にとっては、現政権のうちに体制の保証を取り付けることは絶対の命題である。その文脈から言えば「大統領の1期目内」という目安は、米政権に体制保証の履行を迫る強い意思とも言える。
 「自分への揺るぎない信頼の表明」とトランプ氏が喜ぶのはお門違いだろう。
 米政権は一枚岩でない。「終戦宣言まではやむを得ない」という論調は強まろう。中間選挙が近づくほど、トランプ氏から譲歩を引き出せる可能性は高まる。また北朝鮮ペースで事が進みかねない。
 金氏は、非核化の具体的工程に踏み込んでいない。米国が終戦宣言に応じるとしても核施設の申告と同時行動でなければ到底認められまい。非核化の対象、査察、費用負担なども詰めねばならない。
 18日から今年3度目の南北会談がある。橋渡し役の文大統領は、揺さぶり外交だけでは経済強国を築けないことを金氏に説諭すべきだ。半島の平和を達成するためにも、非核化の実質的進展につながる責任ある協議を期待したい。