遠い古里への帰還をもどかしい思いで待つ元島民。その心中を察すれば、貴重な時間の空費に映る事業である。
 北方四島での日本とロシアとの共同経済活動のことだ。領土問題解決に先んじ、両国が四島で今できることに取り組もうという「新しいアプローチ」の一つである。
 安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領の22回目の首脳会談がロシア・ウラジオストクであり、実現に向けた行程表を承認した。2016年12月の首脳会談で合意してまもなく2年。事業の進展ははかばかしくない。
 海産物養殖、温室野菜栽培、観光ツアー開発、風力発電の導入、ごみの減容対策の5項目のプロジェクトを立ち上げ、日ロ双方から事業者が参加し共同運営するという。
 8月の官民調査団派遣が延期となり現地確認が不十分だったが、両首脳は今回、事業の内容と関連する作業の進め方などで合意した。10月には改めて派遣も行い、事業化を加速させる見通しだ。
 互いの主権を侵さない特別の制度を設けて粘り強く取り組めば、成果を挙げられるかもしれない。しかし、共同経済活動は困難な領土交渉の扉を開くための呼び水であり、返還の機運を高める環境整備が目的だ。
 それ自体の成功にとらわれ時間と労力を費やしている間に、肝心の領土問題が遠のいてしまったら本末転倒だ。
 ロシア独自の経済開発や投資は盛んに行われ、軍事増強も着実に進められている。時間の経過とともに実効支配は一層固定化されるだろう。
 プーチン政権は、日本に領土を引き渡した場合、米軍が展開する可能性を警戒する。日本が調達する米国製の地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」にも憂慮を繰り返し表明しているほどだ。
 安倍氏は記者会見で「私たちの手で必ず問題に終止符を打つ」と述べ、プーチン氏との友情を頼りにするが、局面の打開は簡単ではあるまい。この段階で戦略転換が遅れれば致命傷になりかねない。
 北方領土の元島民団体関係者(83)は、共同経済活動について「領土問題の解決に結び付くのか」と懐疑的だ。
 元島民の自由な往来なども政府に求めているという。急ぐべきは、高齢化が進む関係者らのそんな切迫した願いに応えることではないか。
 安倍氏は「四島の未来像を描く作業の道筋がはっきり見えた」と共同経済活動の見通しに言及した。その先、領土の帰属問題の進展につながる公算がどこまであるのか。丁寧な説明が求められる。
 プーチン氏はきのう「年末までに日ロ平和条約を無条件で締結しよう」と発言した。領土問題の解決が、より容易になるとの考えのようだ。
 日本側も共有できる価値観や利益を少しでも増やし、譲歩の糸口を見つける努力を続けていかねばならない。