産業の競争力強化のため国内最大の官民ファンドとして9月に発足した産業革新投資機構が危機に陥った。存在意義が問われてしかるべきだ。
 機構は経営陣の報酬や国の関与の度合いなどを巡り経済産業省と対立。田中正明社長ら民間出身の取締役9人が辞任表明した。わずか3カ月での機能停止は異常と言える。
 安倍政権の成長戦略のエンジンの一つでもあった官民ファンド。2兆円に上る巨額マネーの投資で新産業育成を目指した機構の頓挫は、政権に与える打撃が大きい。
 混乱の元をつくったのは経産省だ。経営陣の年収について当初、最大1億円超で合意していたのに省内外から高額と批判され、先月初旬ごろ一方的に撤回した。
 同省は「事務的な失態」と非を認めたが、反発した田中社長が、報酬に関するその後の協議を打ち切るなどして関係が悪化。相互不信が積み重なって修復不能となった。
 辞任会見で田中氏は「お金のために(機構に)来たのではない。経産省が信頼関係を毀損(きそん)した」と政府側を批判。給与の自主返納で素早く対応した世耕弘成経産相は「辞任は断腸の思い」などとし責任の自覚が薄い。
 文書で示した報酬案撤回は信義にもとる。「グローバル人材の確保には必要」と明言していた金額の判断理由を引っ込め、「国の資金を使う以上、配慮が必要だ」と、いともたやすく方針転換した。
 世界の市場を相手に取引する投資ファンドのプロにとって、契約違反や虚偽説明は最も嫌う行為だ。元銀行家の田中氏らが容易に受け入れられないのは当然だろう。
 国民世論の批判をかわそうとした政府の急転回は、官邸や財務省による「横やり」を強く感じさせる。
 機構側はほかに、政府が投資判断への監視強化を打ち出したことも問題視した。政府認可ファンドの傘下に、子・孫ファンドを組み込み投資のスピードや自由度を高めようとしたが、透明性を重んじる経産省と折り合わなかった。
 官民ファンドとはいえ、出資金の95%は国。最終的には政策目的に沿った管理が前提になろう。収益性を取るなら民間出身の経営陣のノウハウに頼るしかないが、その裁量をどこまで認めるのか。
 ファンド運営の根源的な部分で両者の共通認識が欠けていたと言わざるを得ない。
 国内に14ある官民ファンドの大半は安倍政権下で設立された。うち六つが損失を抱え思惑通りに進んでいない。そんな実態を打破しようと未来型ベンチャー投資に懸けた同機構すら、このありさまだ。
 政府は、新経営陣の人選を進め来春にも活動を再開させるという。それ以前に、官民ファンドの使命や在り方を根本から検証し直すべきではないか。政府方針に従う人材を集めても、失った信用の回復は簡単には進むまい。