輸出が禁止されている和牛の受精卵が危うく中国に持ち出されるところだった。日本人男性が中国に入国する際、現地の税関で見つかり、受精卵の持ち出しは未遂に終わったという。農林水産省が先ごろ公表した。
 世界的に評価の高い和牛が流出し、大量に飼育される事態となれば、日本の畜産に多大な損害を与えるのは明らかだ。出国時の検査態勢の強化を含め、海外流出を阻止する手だての検討を急ぎたい。
 農水省によると、自称大阪府在住の日本人男性が和牛の受精卵数百個が入った容器を7月、大阪の港から申告せずに持ち出した。上海の税関で発見され、男性が帰国した際、経緯を自己申告した。
 農水省動物検疫所の聴取に対し、男性は「知人に頼まれた。違法と思わなかった」などと説明。同省は家畜伝染病予防法違反の疑いなどで男性を大阪府警に刑事告発する方針を明らかにしている。
 受精卵を入れた特殊な冷蔵容器は、高さ約40センチの金属製で、プロパンガスのボンベのような形をしている。明らかに不審物だが、持ち出す際に税関をすり抜けてしまっている。検査に何らかの手落ちがあったとみられる。
 流出を水際で防ぐ手段は現実には航空会社や船舶会社の検査などに限られている。農水省は再発防止のため、各社に注意を喚起しているが、それだけでは足りない。実効性ある具体的な対策を早急に講じなければならない。
 日本の農産物では、イチゴが韓国に流出し、多額の損害を受けている。栃木県が開発した「とちおとめ」などが無断で持ち出され、今では韓国の栽培面積の9割以上を占める。アジア各国への輸出も活発で、日本の輸出量の8倍以上を誇っている。
 こうした無断栽培によって日本は輸出機会を奪われ、農水省の推計では損失額が5年間で最大220億円に上る。このほか、高級ブドウ「シャインマスカット」、イグサ品種「ひのみどり」の中国での栽培も確認されている。
 和牛に関しては、法規制前の1990年代、米国経由ですでに豪州に持ち込まれている。大規模な放牧場で飼育され、現在では豪州産「WAGYU」として、日本の和牛より低価格で東南アジア各国に輸出され、日本産と競合する事態を招いた。
 中国は牛海綿状脳症(BSE)が2001年に日本で発生して以来、日本からの牛肉の輸入を禁止している。しかし、現実にはアジアの他の国を経由して和牛の肉が流通しており、富裕層を中心に潜在的な需要は大きい。
 和牛は長年の品種改良と細やかな飼養管理によってブランドとしての高い地位を築いた。今回、受精卵流出が未遂に終わったのは偶然にすぎない。日本の畜産業を守るために流出を防ぐあらゆる対策を取らなければならない。