米国を除いた11カ国による環太平洋経済連携協定(TPP)が昨年末に発効した。欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)は2月に発効する。かつてない規模の市場開放であり、国内農業が極めて厳しい状況に直面するのは避けられない。
 輸入農産物の増加で圧迫を受ける農業現場には、不安が渦巻く。政府はTPP対策として農地整備や畜産分野を重点的に支援する予算を計上してはいる。しかし、農業への持続的な支援ではなく一時しのぎの対策の感は否めない。
 安全安心な農産物を求める消費者の不安も依然、根強く残っている。成長促進剤や農薬の不適切使用、遺伝子組み換え、それによる輸入農産物の健康リスクを消費者は一貫して心配してきた。
 なし崩しに輸入品の安全基準が現行より緩和される懸念も残る。現在でさえ輸入の際の安全性の検査は十分ではないと指摘されている。検査をさらに厳格化するなど、不安を払拭(ふっしょく)する対応が農業支援と同時に必要だろう。
 消費者の目が届く地域で安全な農産物の生産に努力している農業を守る。そういう基本的な姿勢が、ぐらついてはいないか。輸出産業に比してはるかに農業を軽視する傾向が強まっている国に対し、生産現場の不満は大きい。
 農業をもっと支援するべきだと主張すると、これに対しては従来、日本の農業は過保護ではないかという反論が常に付きまとった。だが、果たしてそれが事実だろうか。
 例えば、農業所得に占める補助金の割合は、スイスやフランス、英国など欧州諸国は軒並み9割以上だという。それに比べて日本はわずかに3割台で、補助は相当見劣りしているのが実態だ。
 企業による大規模農業のイメージが強い米国では、現実には小規模の家族経営が非常に多く、それに対する手厚い所得保障がある。企業に対しては加えて巨額の輸出補助金もある。国の支援で農業を守るのはこれらの国では常識的な政策である。
 農林水産省の「農林業センサス」によると、小規模の家族経営農業はEUで96%を占めている。米国は98%に上っている。日本もほぼ同じ97%だ。家族が担う経営規模の小さな農業が、どこでも国全体の農業を支えている。
 市場開放と規制緩和によって、これまで日本農業を支えてきた家族農業が崩壊しつつある。農業形態の変貌を生じさせ、地域全体の危機を招いている。安全な農産物を多様な担い手が生産する日本農業の原点に戻るべきだ。
 ことし、国連の「家族農業の10年」が始まった。狙いは「食料安全保障確保と貧困・飢餓撲滅に大きな役割を果たしている家族農業にかかわる施策の推進・知見の共有」だという。食糧自給率をいかにして高めていくのか、改めて考えてみたい。