今月、就任3年目に入るトランプ米大統領は依然、強権的な政治姿勢が目に余る。
 大統領選での公約だったメキシコ国境の壁建設のためにトランプ氏は「国家非常事態宣言をしてもいい。私にはできる」と表明した。
 建設費約57億ドルを盛り込んだ予算案が、下院で多数派を握る野党民主党との対立で成立困難となっている。トランプ氏は大統領権限を使ってでも実現を目指す構えだ。
 年明けにスタートした、ねじれ議会の下での政権運営は早速、難局にぶち当たっていると言えよう。
 この問題では、対立のあおりで他の予算も失効。一部政府機関が昨年末から2週間以上も閉鎖に追い込まれている。約80万人の職員が無給勤務や一時帰休を迫られ、国立美術館、動物園、博物館などが一部入場不可に。財務、商務両省にも影響が出ている。
 不安定な政権運営は、市場の不信感の要因となり、年末以降の株価急落につながったとされる。これ以上、長期化すれば実体経済への影響も及ぼしかねない。この点こそが非常事態ではないのか。
 しかしトランプ氏の懸念は壁建設が滞ることによる不法移民流入に集中する。国家の安全を脅かしているという理由からだ。9日には国民向けに演説し、犯罪の危険性など問題の深刻さを訴える。
 議会の承認を経ずに大統領権限で建設費の捻出を検討すると言うが、米国では予算は議会が立案・審議し大統領の署名を経て成立させるのが原則。大統領権限の適用には懐疑的な見方が多い。
 一方で、トランプ氏は「何カ月でも何年でも政府機関を閉鎖することができる」と、脅しまがいの発言で民主党の譲歩を迫った。政府の正常化を盾に取引しようとする姿勢は、行政の最高責任者として職務放棄に等しい。民主党との誠実な協議を通じて事態を打開すべきであろう。
 そもそも壁建設は、国境警備の実効性よりも不法移民排除の象徴が色濃い。突き詰めれば大統領選再選へ向けた支持層へのアピールでしかない。民主党のペロシ下院議長は「壁は不道徳」と取り合わず妥協の余地はない。新たな解決策の模索が求められよう。
 米政権は先月、不法移民対策で貧困の解消を目的に中米諸国への約58億ドルの資金拠出を決めている。その投資をより確実な成果とするために、壁建設費分をつぎ込み支援を充実させたらどうか。
 長期的には周辺国の自立や経済発展につながり、融和も進む。「憎悪と分断の政治」を押し広げるよりもよほど価値があろう。
 民主党は今後もロシア疑惑や納税記録問題など、トランプ氏の数々のスキャンダルを追及する構えだ。弾劾手続きの動きも既に出ている。その度に政権の足元が危うくなるのか。切り抜けるのか。壁建設が最初の試金石になる。