ゲノム編集による子どもの誕生にどう歯止めをかけるのか。国際的なルールの確立を急ぐべきだろう。
 中国・広東省の大学研究者がゲノム編集技術で人間の受精卵の遺伝子を操作し、双子を誕生させたのは事実だと、中国当局の調査チームが確認した。倫理問題などを巡って波紋が広がっている。
 遺伝情報が人為的に書き換えられたヒトの誕生は世界で初めてだ。安全面でも倫理面でも重大な問題をはらんでおり、研究者の「暴走」と言うほかない。
 この問題は、香港で昨年11月に開かれた国際会議で研究者本人が報告し、明らかになった。調査チームによると、研究者は2016年、国外のメンバーを含む私的な研究チームを組織。男性がエイズウイルス(HIV)に感染したカップル7組の受精卵にゲノム編集を施し、女性の子宮に戻した。
 このうち1人の女性が双子を妊娠・出産したほか、もう1人の女性が妊娠しているという。研究者は「子どもへのHIV感染を防ぐため」と説明したが、感染を防ぐには確立された別の方法があり、医学的な必要性はなかった。
 安全性も確認されておらず、生まれてきた子どもに害が及ぶ恐れがある。医療の臨床では禁じられている今回の研究者の行為は、決して許されるものではない。
 ゲノム編集は、生物の遺伝子を狙い通りに改変できる技術だ。家畜や植物の品種改良などへ利用が急速に広がっている。遺伝子疾患や難病、がんなど、人に応用する動きも出てきた。
 しかし、狙いとは異なる遺伝子が変異する危険や、予期せぬ問題が生じる恐れなどがある。まして受精卵などの生殖細胞へのゲノム編集は、生まれてくる子に限らず、後の世代にまで影響が及ぶことがあり得る。ヒトを変えることにつながるとすれば、人類の未来に関わる倫理問題と言っていい。
 また、親が望む容姿や能力を持つ「デザイナーベビー」の誕生に発展しかねず、優れた遺伝子を残そうという発想は、優生思想に結びつく恐れが否定できない。
 現時点では、子を誕生させる研究は行うべきでないというのが国際的な合意だ。英国やフランス、ドイツなどは法で禁じている。
 今回の双子誕生であらわになったのは、ゲノム編集を施した受精卵から子どもを誕生させることが可能だということだ。安易に不妊治療の一環などで使われるようなことがあってはならない。
 日本では、受精卵のゲノム編集について基礎研究に限って認める指針が示された。子宮に戻すことは指針で禁じているが、遺伝子操作による子どもの誕生を規制する法律の検討が必要ではないか。同時に、国際的なルール作りの議論も深めてほしい。