日本と米国の新たな貿易交渉が週明けにワシントンで始まる。米国は中国との貿易摩擦に忙殺され、日本もことし1月に発効した欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)を先行させていた。いよいよ太平洋をはさんだ超大国と関税引き下げなどを巡る駆け引きが本格化する。

 国内企業への保護主義を鮮明にするトランプ政権に対し、政府は安易な妥協をせず、国益最優先の姿勢で臨んでほしい。

 交渉入り口の焦点は、対象分野をどこまで広げるかにある。米国は牛肉など農産物の輸出拡大に向けた関税削減だけでなく、いずれは自動車関連を含めた幅広い領域を絡めてくるとみられる。トランプ氏が「対日貿易赤字を放ってはおけない」と目をつり上げて訴えているのが、これらの分野である。

 さらに、このところの円安傾向を問題視し、通貨安への誘導を制限する為替条項を持ち出してくるとの観測も消えない。昨年12月、米通商代表部が公表した交渉方針の中で、「不公正な競争優位を得るために為替操作をするのを阻止する」という文言があり、政府は神経をとがらせる。

 同じ交渉事にもかかわらず、日本側は農産品などモノの関税に限定する「物品貿易協定(TAG)」と呼ぶ。米国側は他分野もひっくるめる包括的な「自由貿易協定(FTA)」と名づけるなど、スタンスが微妙に違う。土俵づくりのところでもめる可能性がある。

 環太平洋連携協定(TPP)から離脱した米国は、日本への牛肉や豚肉の輸出でオーストラリアなどに比べて不利な立場に置かれている。日欧の連携協定によって、さまざまな製品や食品で関税の撤廃などが進み、米国の焦りを一層誘う。

 不満のくすぶる米農畜産界や自動車業界などの声を背に、タフネゴシエーター(手ごわい交渉者)の異名を持つ通商代表部がどんな秘策を打ってくるか、いきなり緊迫する場面も否めない。

 日米通商交渉の歴史は長い。戦後、衣料品の輸出規制を求める繊維問題をはじめ、牛肉・オレンジの輸入自由化、そしてコメの市場開放などが記憶に新しい。

 1995年の自動車交渉の際には、当時の橋本龍太郎通産相が得意の剣道に見立て、米通商代表から竹刀の先を喉元に突き付けられるしぐさを演じたのは語り草だ。日米が世界経済をけん引する二大勢力の地位にいたころの話である。

 危機感を抱いた欧州は大きな経済圏を築いて対抗し、いまは中国が主要な一角を占める。日本はこうした変化を的確に捉え、したたかな戦略の下に渡り合うことが求められよう。自由貿易国家の代表格との自負を忘れず、譲れぬものは譲れないという覚悟を貫いてもらいたい。