パリ中心部にある観光名所で世界遺産のノートルダム寺院(大聖堂)で、高さ約90メートルの尖塔(せんとう)が焼け落ちる衝撃的な大火災が発生した。
 出火原因は改修工事に伴う溶接作業による失火とみられている。フランス政府から早くも5年以内の修復方針が示され、国内外から支援の申し出が相次いでいるという。
 わが国も再建に向けてさまざまな支援を惜しむべきでない。菅義偉官房長官は17日の記者会見で「大聖堂の焼失は世界にとって大きな損失。具体的な要請があれば、積極的に対応したい」と語った。フランスの要望に沿うような形で、技術的、経済的な支援に取り組みたい。
 歴史的建造物の火災で記憶に新しいのは、昨年9月に起きたブラジル・リオデジャネイロの国立博物館の火災だ。200年の歴史を誇るこの博物館には、自然科学や人類学などに関する2千万点もの収蔵品があり、その多くが焼失してしまった。
 貴重な文化財を災害や破壊から守るために、どんな有効な方策があるのか。今回の大聖堂火災についてフランス政府は詳細に原因を解明し、その上で、防火対策を含む文化財保護のあるべき姿を各国で共有していく必要がある。
 その国ばかりではなく、世界中の人々の過去と将来にわたる貴重な財産である文化財は、しかし、受難の歴史を刻んできた。その中でも悲劇的だったのは、アフガニスタン中部のバーミヤンの大仏(磨崖仏)の破壊である。
 イスラム原理主義勢力タリバンによって、2001年に爆破された。その様子は映像で配信され、世界中の怒りと批判を呼んだ。紛争地の文化財をどのようにして守ればいいのか。平和こそが文化財保護の大前提であるという認識を、いや応なく私たちは再確認させられた。
 爆破された後、まず日本が率先して国連教育科学文化機関(ユネスコ)に資金協力し、再建に向けた歩みが少しずつ進んでいる。世界から高い評価を受けているわが国の国際貢献の一つである。
 国内に目を向ければ、相次ぐ自然災害で多くの文化財が被害を受けている。昨年6月の大阪地震では特別史跡大坂城跡(大阪市)で石垣の一部が落下し、平等院鳳凰堂(びょうどういんほうおうどう)(京都府宇治市)では国宝・中堂の壁にひびが入った。台風21号では彦根城(滋賀県彦根市)などが破損した。
 伝統的な工法で造られた神社仏閣の多くは地震の揺れに対して比較的弱く、東日本大震災や熊本地震などでは、数え切れないほどの建築物や仏像が被害に遭っている。
 ノートルダム寺院の火災を受け、文化庁は国宝と重要文化財の防火対策について、緊急点検を始めたという。火災や災害による損傷から文化遺産を守り、無事に後世に伝えるため、可能な限りの対策を講じてもらいたい。