新規制基準をクリアできない原子力発電所は稼働させるべきではない。極めて当たり前の判断と言える。
 原子力規制委員会は、原発の新規制基準でテロ対策拠点として義務付けられた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)について、期限までに完成しない場合、運転中の原発の停止を命じる方針を決めた。再稼働した原発を持つ関西、四国、九州の電力3社は特重施設の完成が期限より遅れるとして、期限延長を求めていたが、規制委は延長を認めなかった。
 電力会社の要請を退けたのは、独立した立場で安全を追及する規制委として当然の対応だ。新規制基準に適合しないまま原発の運転を続けさせる事態は看過できない。
 電力会社側は「工事の見通しが甘かった」と自らの不手際を認めつつ、原発の運転継続を望んだ。安全対策を軽視しているのではないか、と疑わざるを得ない。
 規制委の更田豊志委員長は記者会見で「差し迫った状況で当局に訴えれば、何とかなると思ったのだとしたら大間違いだ」と電力各社を批判した。工事の遅れを説明すれば、規制委は完成を猶予してくれる-。電力会社側がそう考えていたのなら言語道断だ。甘えは許されない。
 特重施設は、2013年施行の新規制基準で設置が義務付けられた。原発に航空機が衝突するなどのテロ攻撃を受けた場合、遠隔操作で原子炉の冷却を維持する。原子炉建屋から100メートル以上離れた場所に緊急時制御室や炉心冷却ポンプなどを備える。
 当初は新規制基準施行から一律5年、18年7月まで設置する必要があった。その後、審査の長期化を踏まえ、規制委が「原発本体の工事計画の認可から5年」と1度延長した経緯がある。
 規制委は原発の運転停止命令をためらうことなく、ルールを厳格に適応してほしい。
 関西、四国、九州の電力3社によると、再稼働済みを含め5原発10基で特重施設の完成が遅れる見込みだ。20年3月以降、原発は次々に停止するとみられ、停止期間は最長で約2年半となるという。
 女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働を目指す東北電力にとっても、規制委の判断は重くのしかかる。特重施設について、東北電は「設計が定まっておらず、明確な工事期間を申し上げられる段階にない」という。
 女川2号機の安全対策工事費が既に3400億円に上っている東北電は、特重施設の費用に加え、再稼働しても運転停止という経営リスクを背負うことになる。
 今回の規制委の判断は、電力各社の経営に大きな影響を与えることになろう。
 だが特重施設は本来、再稼働に先立ち設置されるべき施設だ。電力各社は規制委の判断を厳粛に受け止め、安全対策に万全を期す必要がある。