沿岸部の住民なら、暮らしている市町村の津波ハザードマップを一度は目にしたことがあると思う。だが、他の自治体のマップを見たことがある人は少ないのではないか。
 マップ作成は市町村の役割で、東北の沿岸部と周辺の74自治体中65自治体が作り、ウェブサイトで公開している。機会があれば沿岸部に住んでいる人もそうでない人も、複数の自治体のマップを見比べてほしい。デザインが結構違うことに気付くはずだ。
 浸水深を色調で示す自治体が多いが、深さの区切り方や配色パターンがまちまちで、同じ色が自治体によって異なる深さを意味するケースも目立つ。命を守る表示が所変われば品変わるといった現状は、混乱を招きかねない。
 自治体からマップ作成の委託を受けたコンサルタント会社などが、デザインを決めるケースが多く、見た目がばらつく一因になっている。自治体は主に住民の利用を想定してマップを作るため、自治体の境界を越えて足並みをそろえるという発想が生まれにくいことも遠因だ。
 紙に刷ったマップを配布していた時代と違い、今は通信技術の発達により誰でも簡単にウェブのマップを閲覧できる。住民に加え、通勤通学者、旅行客らがアクセスすることも念頭に置く必要がある。
 訪日外国人旅行者(インバウンド)や在日外国人が増え、視覚的に防災情報を伝える重要性も高まっている。全国的なデザインの標準化は早ければ早いほうがいい。
 国土交通省は2016年、水害ハザードマップ作成の手引を改定し、標準的なデザインとして、0.5メートル、3メートル、5メートル、10メートル、20メートルで区切る6段階の浸水深と配色を示した。ただし、手引に強制力はなく、対応は自治体任せになっている。
 デザインをそろえる参考になりそうなのが、津波避難場所や津波避難ビルを示す標識だ。かつては自治体ごとにバラバラだった。総務省消防庁は05年、観光客、外国人にも分かりやすいように標識を統一。仕様を定めた日本工業規格(JIS)の認定も受けて、すっかり定着した。
 住宅の被害程度と再建方法に応じて最大300万円を支給する被災者生活再建支援法は、阪神大震災で大きな被害を受けた兵庫県が議論をリードし、全国知事会が国会を突き動かして生まれた。東日本大震災では青森、岩手、宮城、福島4県で住宅が被災した18万3474世帯に約3279億円が支給されている。
 住民以外の人も現地の津波リスクを認識し、避難行動を検討できるように、震災の悲しみと苦悩を知る東北からいち早くマップデザイン統一の声を上げ、機運を高めるべきだろう。将来の津波による人的被害の芽を少しでも摘めれば、震災の犠牲者と遺族の無念に応え、全国の支援に報いることになる。