米国と中国の貿易交渉に再び暗雲が垂れ込めている。トランプ米大統領は、中国からの輸入品2千億ドル(約22兆円)分に対する関税率を10日に10%から25%へ引き上げると表明した。
 閣僚級協議を目前に控え、譲歩を迫るための揺さぶりと見られる。発言は波紋を広げ、日本など世界の株式市場で株価が急落した。米中両国は経済だけでなく、知的財産権や軍事技術、サイバー攻撃、外交に至るあらゆる分野で角を突き合わせる。
 覇権をかけた争いと言えるが、世界の国内総生産(GDP)の24%を占める米国と第2位(15%)の中国による関税引き上げと報復の応酬は、世界の金融経済の大きな波乱要因となる。お互いに良識を踏まえ、冷静な対話を積み重ねて歩み寄ってもらいたい。
 貿易摩擦が発火したのは昨年7月、米国が「もはや対中貿易赤字を放置できない」と産業機械、電子部品などに25%の追加関税をかけたことにさかのぼる。中国は即日、大豆や自動車を対象に報復措置を取った。
 8月に第2弾、9月に第3弾の報復合戦がなされる。対象品目などにおいて過去に比類のない追加関税の発動は世界経済を失速させた。
 ことし2月下旬、貿易交渉に進展が見られ、米国は追加措置の延期を決めた。「ひとまず休戦」と各国がほっとしたのもつかの間、トランプ氏は突如として制裁強化に言及した。
 外国企業が中国の市場に参入する際、技術を移転するよう強要されていると米国は改善を求めていた。技術移転と知的財産権の侵害、国有企業優遇について中国側は見直しに難色を示し、トランプ氏の怒りにつながったとされる。
 多国間による自由貿易を中国が掲げるのであれば、国際ルールに反するこれらの問題を放置しておくのは許されない。技術移転と著作権保護の在り方を含め、法整備を進めるなど一刻も早く是正する必要があろう。
 その報復として、関税引き上げで追い詰めるやり方も短絡的であり、理解に苦しむ。かつて自国を守る保護貿易主義が世界にはびこり、自由貿易を縮小させた時期があった。サプライチェーン(部品の調達・供給網)の張り巡らされた現代で同じことを繰り返せば、日本をはじめ生産活動の停滞を招くのは必至だ。
 トランプ氏は来年の大統領選を意識し、支持団体のある重工業地域を重視するなど強硬姿勢を強めている。先月の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも「米国の保護主義的な政策がなければ、世界の景色は違っていた」と嘆く声が聞かれた。
 制裁の応酬は両国の国益にならない。リスクを拡散して負の連鎖がわが身に降りかかってこよう。改めるべき点を改め、賢明な合意を得られるよう粘り強い交渉を望む。