歩行者が車の犠牲になる痛ましい事故が相次ぐ。車は扱いを一歩間違うと凶器になってしまう。ドライバーはその認識を改めて肝に銘じなくてはなるまい。
 大津市では、交差点で車2台が衝突した事故の巻き添えになり、園児2人が幼い命を落とした。4月には東京・池袋で、87歳の男性が運転する車が暴走し、3歳の女児と母親がはねられ亡くなった。神戸市でも市営バスが横断歩道に突っ込み、2人が死亡する事故が起きた。
 いずれも落ち度のない歩行者らが突然の事故でかけがえのない命を失った。20日まで実施中の春の全国交通安全運動は、重点の一つに「子供と高齢者の安全な通行の確保」を掲げる。運転者は改めてハンドルを握る責任を自覚し、関係機関は万全の事故対策を期するよう望みたい。
 「日本は諸外国に比べ、歩行者が犠牲となる割合が非常に高い」。警察庁の栗生俊一長官がそう言及したように、日本は歩行者の安全対策が遅れている。
 警察庁によると、2016年の交通事故死者数のうち、歩行者が占める割合は日本が35%で、米国とフランスの約16%、ドイツの約15%を大きく上回っている。
 日本では18年の交通事故死者3532人うち、歩行者と自転車に乗っていた人を合わせれば約5割に達し、交通弱者が犠牲になる割合が突出している。
 その背景の一つには、道路の歴史的な違いもあろう。西欧では古くから、馬車が走る道として整備されたが、日本の街道などは基本的には人が歩く道として造られた。
 戦後の高度成長時代、日本では車が急増し、人が歩く道路に車が入り込んだ。歩行者の安全よりも車が優先され、「交通戦争」と呼ばれた1970年代には年に約1万6000人が交通事故で亡くなっている。
 高規格幹線道路の整備などで「車歩分離」が進んだとはいえ、歩行者にとって危険な道路はまだまだ多い。改めて危険箇所の点検を徹底するとともに、ガードレールやポールの設置、歩道の確保、信号機の新設などあらゆる安全対策を講じる必要がある。
 子どもやお年寄りが身近な生活道路で犠牲にならないよう、関係機関は住民の協力を得て、より安全な地域づくりに取り組んでほしい。
 運転者のモラル向上も欠かせない。日本自動車連盟(JAF)の調査によると、信号機のない横断歩道を歩行者が渡ろうとした際、停止する車は8.5%にすぎない。長野県58.6%と停止率が高い県がある一方、東北6県は2~7%台で、いずれも全国平均を下回っている。
 ドライバーへの意識啓発を進めると同時に、安全確保に向けたハード面の対策を拡充し、歩行者優先の優しい社会を目指したい。