東日本大震災で被災した漁港は、9月に大船渡市三陸町の千歳漁港で復旧工事を終え、全108港が震災前の機能を取り戻す。災害公営住宅の整備も盛岡市内に県営南青山アパート118戸の完成を待つのみとなった。

 被災市町村に権限と財源を預けた宮城とは対照的に、多くの事業を県の責任で進めてきたのが岩手の震災復興だった。国の復興・創生期間は2021年3月に終了する。

 任期満了に伴う知事選(22日告示、9月8日投開票)も当然、復興の総括とポスト復興の針路が主要論点になろう。立候補を表明している現職達増拓也氏(55)と新人及川敦氏(51)には建設的な論戦を期待したい。

 達増氏は、自身が立案、主導した県総合計画(19~28年度)を知事選のマニフェスト(公約集)に据えた。震災からの県土復興を踏まえ「県民の幸福を追求する」という基本理念からは理想家肌の達増氏らしさが読み取れる。

 ただ、分厚い総合計画を有権者が十分に理解するのは難しい。目指す岩手の将来像と工程表をかみ砕いて伝える努力が求められる。

 現職首長が自治体の最上位計画を丸ごと選挙公約としてしまうことには異論もあるようだが、全国的には既に先例があって理にかなっている。惜しむらくは、後発の利を生かして制度設計に一段の工夫が必要だった。

 総合計画は10カ年を1サイクルとするのが一般的なのだが、首長マニフェストと連動させるときは8カ年として選挙と周期を一致させる配慮が求められる。例えば岐阜県多治見市は総合計画の策定着手も市長選後で、首長マニフェストとの整合性を担保する仕組みを取り入れている。

 県が大半を引き受けた復旧・復興の大型事業が将来的に財政を圧迫するのは自明のことだ。復興事業の残余分も含め、総合計画に盛り込んだ全施策を反映させた客観的な中期財政見通しも併せて提示してほしい。

 一方、対立候補となる元県議の及川氏には、現県政の何が問題で、どう改めるべきなのかを有権者の前に明快に示す責任がある。

 本来なら、二元代表の一翼を担って行政を監視する議会も4年間の活動を通じて県政の問題点を明らかにすべきだった。しかし、達増氏が選挙戦で信を問う総合計画に全会一致で賛成している県議会だけに、その役割を十分に果たしてきたとは言い難い。

 8年ぶりとなる選挙戦は7月にあった参院選の余韻を引きずり、ともすれば及川氏を推す政権与党と達増氏の元に結集した野党共闘の対決という戦いの構図に注目が集まりがちだ。

 有権者を観客席に追いやって与野党のつばぜり合いを演じても仕方なかろう。2人の候補には、県政界関係者の外側に届く論戦を望みたい。