米国とロシアの中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効し、歯止めなき核ミサイル開発競争に世界が直面する事態となった。核軍縮体制の立て直しと強化のためには、中国を引き入れた包括的な枠組みの構築が急がれる。

 失効の背景をまず確認しておきたい。米国を射程にした長距離核ミサイルの開発過程で中国やイラン、北朝鮮は中距離核ミサイルを手にしたとされる。紛争を抱える隣国を射程にパキスタンやインドも核ミサイルを保有するようになった。

 1987年に合意したINF廃棄条約を受けて米ロはミサイル廃棄を進めたが、周辺国の状況が激変した。米ロのこうした国々への抑止力は相対的に低下し、ロシアは軍艦搭載のINFの開発などを進めたとみられる。

 特に米ロが問題にするようになったのが中国である。これまで中国は条約に縛られずに、核ミサイル戦力を開発し増強してきた。中国の核ミサイルという新たな要因の登場によって、従来とは異なる局面を米ロも迎えている。

 中国政府は7月に公表した国防白書で「中国の軍事力の水準は世界の先進国と比べてまだ大きな開きがある」として、軍事力強化の必要性を強調している。具体的には装備の近代化を明記し、米領グアムに届く中距離弾道ミサイルの配備を掲げた。

 米国のINF廃棄条約破棄に際し、中国政府が「米国の狙いは中国の戦力増強を押さえ込むためだ」と激しく反発したのは、こうした背景による。核兵器削減に同調する意思は、今のところ、習近平指導部にはない。

 しかし、このままの状況が続くとすれば、際限なき核兵器の開発競争が各国で進みかねない。核兵器の使用を抑止するのは核兵器の保有だという国際社会の現状認識は、残念ながら、厳然として存在したままだからだ。

 米ロ間で2011年に発効した新戦略兵器削減条約(新START)では、核軍縮史上、最低水準となるまで配備戦略核弾頭数や大陸間弾道ミサイル(ICBM)を削減する成果を挙げている。

 この条約が有効期限を迎えるのは21年2月。延長できなければ、INF廃棄条約に続いて米ロの軍拡への歯止めがなくなるという厳しい状況に国際社会が直面することになる。二大核保有国には条約の延長を強く求めたい。

 米国のオバマ前政権が提唱した「核なき世界」がむしろ「核に満ちた世界」に変貌する危険に現在、世界はひんしている。北東アジアでは、北朝鮮の核ミサイルの脅威も変化がなく、核軍縮につながる展望は見えない。

 中国を交えた新しい核軍縮の枠組みを早急に構築する必要に迫られている。極めて困難ではあっても、そのためにわが国はでき得る限りの外交力を発揮すべきだ。