広島はきのう、被爆から74年の「原爆の日」を迎えた。9日には長崎で平和祈念式典がある。核による惨禍を後世に伝え、核廃絶への歩みを進める-。被爆者らの思いを共有し、平和への誓いを新たにしたい。

 広島市の松井一実市長は式典の平和宣言で、核兵器の製造や保有を法的に禁じる核兵器禁止条約に言及した。「署名・批准を求める被爆者の思いをしっかり受け止めていただきたい」。条約に背を向ける日本政府に対し、署名・批准を促した。

 政府は正面から、その訴えに向き合うべきではないか。被爆者の切実な思いとは裏腹に、安倍晋三首相はあいさつで、条約には一言も触れなかった。核兵器のない世界の実現に努力するとして「核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、対話を粘り強く促す」と述べた。

 そうであるなら、核保有国にどんな主張をし、核兵器のない世界をどのように導くのか。核開発競争で国際関係の緊張が高まる今だからこそ、政府は具体的な行動で道筋を示す必要がある。

 核禁止条約は2017年、国連で122カ国・地域の賛成で採択された。いかなる核兵器の使用も国際人道法に反すると断じ、史上初めて核兵器の全面禁止を定めている。

 制定には、広島や長崎の被爆者らの粘り強い訴えがあった。前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記されている。

 しかし、米国やロシア、中国など核保有国は不参加を決め込み、米国の「核の傘」に頼る日本も「条約には署名、批准しない」とする姿勢を崩さない。

 一方で、条約は発効に向け着実に前進している。発効には50カ国・地域の批准が必要だが、7月末までに70カ国が署名し、24カ国が批准した。それを推進しているのは、非核国と市民社会だという。

 核保有国と非保有国には、深い溝がある。核抑止力を安全保障政策の根幹とする核保有国と同盟国にとって、確かに条約は影響が大きい。しかし、抑止力に頼る限り、核兵器はなくならない。

 日本政府は双方の「橋渡し役」を自任するが、核廃絶に向けて国際社会を主導する熱意は伝わってこない。唯一の戦争被爆国として、条約に背を向ける態度は自らの役割を放棄するに等しい。

 国際情勢は国家間の対立が目立ち、「核兵器なき世界」への歩みは停滞している。

 米国は今年2月、臨界前核実験を実施した。米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約はこのほど失効。北朝鮮の非核化は進まず、イランの核を巡る状況も混迷している。

 核兵器による災禍を体験した日本は、核廃絶をリードする役割と責任がある。政府は被爆者らの訴えに真摯(しんし)に向き合い、その責務をしっかり果たしてほしい。