日本の商業捕鯨が31年ぶり再開され、1カ月が過ぎた。国際捕鯨委員会(IWC)脱退に対する国際批判は現時点で激化しておらず、鯨肉の市場はご祝儀相場も相まって高値で推移する。まずは順調な船出といえるが、厳しい漁獲制限と鯨食の衰退で事業の採算性は依然、見通せない。

 再開後、沖合で操業する捕鯨母船「日新丸」は三陸沖などでニタリクジラ67頭を捕獲。約350トンを仙台港に初水揚げした。仙台市中央卸売市場であった今月1日の競りは、高級品の尾肉に1キロ当たり2万円の最高値が付いた。

 市場関係者は「商業捕鯨再開への期待感が値段に反映された」と手応えを語った。

 鯨肉の質は向上した。調査捕鯨と異なり肉質の良い大型の個体に絞って捕獲でき、船上で血抜きをして鮮度を保てるようになった。石巻市の鮮魚店は「30~40年前に流通していた鯨肉と比べても質が違う」と歓迎する。

 水産庁は商業捕鯨の捕獲枠を、IWCが認めた算出方法に基づき半年間でミンク52頭、ニタリ150頭、イワシクジラ25頭に設定。年間の捕獲枠は資源量全体の1%に満たず、同庁は「100年間、捕獲を継続しても資源に悪影響を与えない」と説明する。

 捕鯨再興への機運が高まる半面、前途は多難だ。高値の相場はいずれ落ち着く。捕鯨業者の収入の柱だった、調査捕鯨への補助金は大幅に減る。現在の捕獲枠での鯨肉供給量は調査捕鯨の半分以下で、採算の確保は難題だ。

 国内の食卓から鯨肉が消えて久しい。クジラが貴重なタンパク源だった1962年の年間消費量は23.3万トン。その後、牛や豚といった食肉の普及と商業捕鯨からの撤退で急速に減り続け、2017年度は3000トンになった。

 今の食生活に鯨肉が入り込む余地は少ない。需要の裾野を広げるには、いかに付加価値を付けるかが肝要になる。

 期待されるのは観光資源としての活用だ。東北の中山間地では保存食としてクジラを食べてきた。石巻市をはじめ沿岸捕鯨の拠点には独自のクジラ料理がある。食文化として積極的に発信してほしい。

 鯨肉は高タンパク・低脂肪で、疲労の防止や回復に効果があるとされるアミノ酸「バレニン」を大量に含む。コラーゲンが豊富などの特長があり、健康食としての可能性も秘めている。

 商業捕鯨再開はIWC脱退という代償を伴い、戦後日本の国際協調路線の転換となった。海洋資源は世界的に減少しており、水産業の持続には各国が連携した資源管理が欠かせない。日本は多国間での交渉を見据え、失われた信頼を回復する必要がある。

 31年で捕鯨産業を取り巻く環境は激変した。今年を「商業捕鯨元年」と位置付け、自立可能な産業像を構築するとともに国際理解を得ていく不断の努力が求められる。