「逃亡犯条例」改正案の反対運動から始まった香港の大規模デモが緊迫の度を高めている。中国の習近平指導部が香港情勢を「共産党を狙った革命」と認定し、場合によっては武力鎮圧の可能性があることを示唆したためだ。

 中国は既に香港に近い深〓に1万人規模の武装警察を派遣し、鎮圧の演習を続けているとされる。武力介入は30年前の悲劇的な天安門事件を想起させる暴挙でしかない。デモに参加する側も介入の口実を与えないよう抑制的な行動に徹してもらいたい。

 人権問題をテーマとする香港のデモは国際社会が高い関心を持って注視している。トランプ米大統領が18日、天安門事件に言及し、武力介入すれば貿易協議での取引も困難になるとして、中国をけん制したのはその1例だ。

 条例改正案は犯罪容疑者を中国に引き渡せるという内容だが、中国の人権状況からすれば香港の市民にとって恐怖以外の何物でもない。中国の政治体制に対して批判的な本を販売していた書店関係者が中国本土に拉致、拘束された事件は、記憶に深く刻まれているはずだ。

 新疆ウイグル自治区の現状も、中国の悲惨な人権弾圧を物語る。国連人種差別撤廃委員会の昨年8月の報告書によると、数万人から100万人以上のウイグル人を「教育訓練センター」と称する強制収容所に拘束しているという。

 若者が中心の香港のデモの背景には、当然ながらこうした中国政府への強い反発がある。中国の影響力が強まるに従って、言論の自由がじわじわと後退した現状へのいら立ちと、将来は自由そのものを失うのではないかという危機感がある。

 1997年に英国から返還された香港には、高度な自治が約束された。憲法である香港基本法は返還後50年間の言論の自由を保障している。若者たちの視野にあるのは、その保障の先にある約30年後の香港の姿だろう。

 中国が恐れているのは、香港の抗議運動が中国本土に体制批判として飛び火する事態だという。このまま香港の状況を放置すれば、共産党の一党独裁体制をゆるがせるという危機感を持っているとすれば、力によるデモ収束の恐れは十分あり得る。

 先週、2日間にわたって香港国際空港のロビーをデモに賛同する数千人の若者が埋め尽くした。アジア有数のハブ空港で、約600便が欠航したニュースは、世界中を駆け巡った。空港に集まった最大の理由は、国際社会の支援を求めるためだ。

 市民に対する武力の行使はかつて天安門事件がそうだったように、中国の国際的な孤立を招くだけだろう。香港のデモへの直接的な介入は、国際社会が連携して断念させたい。そのためには各国が香港の情勢を注視し、事態を憂慮する発言を続けるべきだ。
(注)〓は土へんに川