通常の事態ではないと認識されているとはいえ、国民の暮らしに多大な影響を与える法令の改正まで必要なのか。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて、安倍晋三首相は従来の特別措置法を改正する意向を示し、野党党首に協力を求めた。来週中の成立を目指すという。

 必要な手だてを講じることに異論はないが、現政権の手法をみると、一部の意見だけを聞いて独断専行で決めるのが通例のようになっている。

 全国の小中高校の一斉休校では、政府の基本方針にないことを担当閣僚や与党責任者と十分相談せずに首相が決断し、現場の混乱を招いた。

 企業の経済活動や私権の制限につながる特措法には、慎重な運用が求められる。

 どんな影響を及ぼすかを一つ一つシミュレーションし、国会で丁寧な審議を尽くした上で、国民が納得する説明をしてもらいたい。

 政府が検討しているのは、2013年施行の「新型インフルエンザ等対策特別措置法」を見直し、新型コロナを含めるというもの。異なる病原体には法改正で対応するというのが政府の言い分だ。

 中身はさほど変わらず、国民生活に甚大な被害を及ぼすと予想された場合、緊急事態宣言を出せるようになる。

 宣言を受け、都道府県知事は外出自粛や学校休校のほか、体育館、映画館など多くの人が集まる施設の使用制限を要請、指示できる。

 法的根拠を持つことによって、自治体の協力を得やすくなり、従わざるを得ない状況になると見込んでいる。

 可能となる措置として、「臨時医療施設のための土地と建物の使用」「鉄道、運送会社への医薬品の運送要請」「医薬品などの売り渡し要請」を含んでいる。

 もとより行政主導で私権を制限するのは、よほどのことがない限り、越えてはいけない一線と言われる。

 新型コロナへの国民の高い意識を踏まえると、民間企業への協力要請とその実施については、現行の行政指導でも十分できるのではないか。

 観光、宿泊業界は相次ぐキャンセルによって打撃を受け、経済活動の縮小が懸念される。活動制限によって一層、萎縮へと向かわないよう慎重に検討する必要があろう。

 特措法は民主党政権時に成立した。首相の呼び掛けに対し、旧民主の流れをくむ立憲民主党、国民民主党は反対しにくいと読んだのだろう。

 新型コロナへの対応の遅れを批判されている政権が、野党との「一時休戦」に持ち込もうという思惑もちらつく。

 経済対策の具体化や医療現場への人材の手当てなど、急がなくてはならない課題は山積している。

 法案審議を尽くすのは当然としても、費やす労力を目の前の対策に充てた方が、よほど国民の不安解消につながると思えてならない。