原子炉3基がメルトダウン(炉心溶融)し、周辺環境に放射性物質を大量放出した東京電力福島第1原発事故から間もなく9年になる。

 事故以来、廃炉に向けた作業が進められているが、早急な対応を求められているのがトリチウム(三重水素)を含む汚染水の処分。タンクによる貯蔵が限界に近づきつつあるためだ。

 政府の小委員会は今年1月、「海洋放出」と「大気放出」の2案が現実的な選択肢との見解をまとめた。いずれも周辺環境に放出することになる。新たな「風評被害」を心配する福島県が簡単に受け入れられることではない。

 いたずらに急がず、トリチウムの分離技術の進展なども参考にした上で最終決定するのが、最も地元の利益にかなうのではないか。

 水素の放射性同位元素であるトリチウムは原子炉内の核反応で生成され、「水」の形で存在する物質。ただ、普通の水(軽水)とトリチウム水は化学的にほとんど変わらないため、他の放射性物質のようには除去できない。

 福島第1原発では汚染水を浄化装置に通してさまざまな放射性物質を取り除き、敷地内のタンクに貯蔵しているが、トリチウムはほぼそのまま残っている。

 ただ現在のペースでタンクを増設すると、2年後には満杯になるという。処分方法を決めるとすれば、そろそろタイムリミットに近づいているとみられる。

 政府の小委員会が指摘した海洋放出は、トリチウム水を薄めて海に流す方式。大気放出は900~1000度に熱して気化し、地上数十メートルの高さの排気筒から出す方式。

 トリチウムはどの原発でもかなりの量が発生し、海や大気に放出されてきた経緯がある。また、1979年にメルトダウン事故を起こした米スリーマイルアイランド原発では大気放出が行われた。

 いずれもトリチウムをほぼそのまま放出することになるが、除去や分離の研究開発も進められている。

 例えば京大などの研究グループは、酸化マンガンにトリチウムを吸着させる方法を開発している。近畿大などのグループも、特殊なフィルターによってトリチウムを除去する装置を開発したという。

 まだ実験室レベルだとしても、国などが後押しして実用化を目指す価値はあるのではないだろうか。

 海や大気に放出すれば、福島県産品の買い控えなどをさらに深刻化させることにもなりかねない。トリチウムを除去できれば、たとえ全量でないにしても県にとっては好材料だろう。

 「合理的」とか「現実的」といった尺度で決めれば、環境放出の可能性は高まる。だが、それは処分する側の理屈であって、福島県にとっては別の判断基準があっても当然のことになる。