東日本大震災の発生から9年を迎えた岩手で、資源を巡る対立が顕在化している。豊かだった三陸の海は震災津波で様相が一変し、漁民の生活を懸けた漁獲論争が法廷に持ち込まれた。一方、東京電力福島第1原発事故を契機としたエネルギー政策の転換は、地域社会に思わぬ波紋を引き起こしている。

 サケの固定式刺し網漁を禁止する岩手県の漁業調整規則を巡って震災の被災漁民90人が起こした訴訟は、最高裁に判断が委ねられる事態になった。

 2月の控訴審判決で仙台高裁は一審盛岡地裁の判決を支持。「減少傾向にある漁獲量に照らせば、漁獲方法を限定することは不合理ではない」として漁民側の訴えを棄却した。漁民側は個人の年間漁獲量を上限10トンに抑制する提案もしていたが、判決は「資源保護への影響がないと言えない」とした。

 三陸の漁場では震災後、ほぼ全ての魚種で記録的不漁が続いている。残念ながら、司法が水産資源の回復や被災漁民の暮らしを守る方法論を指し示すことはない。権利は守られるべきだが、司法は争いの根本を解決してくれない。

 ひとたび起きた原発事故処理の困難を考えれば、脱原発は論をまたない。しかし野放図な再生エネルギー開発は、各地で思わぬトラブルを引き起こしている。

 遠野市では昨年、東京の事業者が建設を進める大規模太陽光発電施設(3万4500キロワット、92ヘクタール)から汚水が河川や農地に流れ込む被害が発生した。こうした事態を受けて太陽光発電施設が景観や環境に及ぼす影響を最小限に食い止めようと市は、再生エネルギー条例の改正を検討。1ヘクタール以上の施設建設を認めない方針にかじを切った。

 本田敏秋市長は「日本のふるさと遠野の貴重な財産である景観資源を後世に残し、災害を防止するために必要な規制」と説明する。先進的な取り組みを評価したいが、今後、事業者とのあつれきが予想されよう。

 利害の衝突が相次ぐ一方、新たな試みも始まっている。岩手県北の9市町村は、横浜市と再生可能エネルギー供給協定を締結した。

 4月には一戸町の地域電力会社「御所野縄文電力」が横浜市への供給を始める。普代村は温室効果ガスの二酸化炭素を吸収する特産のワカメやコンブに着目。企業などが二酸化炭素吸収量を買い取る横浜市独自の排出権取引制度に参入する。

 哲学者でせんだいメディアテーク館長の鷲田清一氏は、震災を踏まえて「中央」対「地方」の構図で物事を捉える時代ではないと主張し、「町方」と「地方(じかた)」の循環による社会の再構築を呼び掛けた。県北9市町村の取り組みは、その実践だ。資源を巡る対立の解決策も、ここにヒントがありそうだ。