美術館など公共の文化施設が全国で建ち始めたのは、1960年代とされる。

 その後、ゆとりと娯楽を求めて競うように建設された。ここまでは愛好家向けの箱物の位置付けだった。

 2017年に文化政策の方向を定める文化芸術振興基本法が改正された。名称を文化芸術基本法に改め、新たな理念として「文化芸術の継承とともに、観光、まちづくり、国際交流、教育施策などとの連携を図る」とうたった。

 展示物を鑑賞するだけでなく、人との触れ合いや都市のにぎわいを創出する場へと大きく変わったのである。

 同時期に文化財保護法も見直され、市民の記憶や語り継がれた物語を蓄積する遺産として保存活用を促している。 仙台市青葉区にある宮城県美術館を宮城野区の仙台医療センター跡地に移転、集約する県の構想についても、こうした広い視点から捉えることがあっていい。

 仙台市のまちづくりや観光施策を踏まえると、文教地区の川内から移すのが良策なのか、建築から約40年間親しまれた営みを断ち切っていいものか。幾つもの新しいアプローチができそうである。

 県は2月中旬、有識者懇話会に構想の最終案を示し、了承された。中間案では「集約・複合化する」としていたのを「集約・複合化する方向でさらに検討を進める」との表現になった。

 最終決定とせず、県民や美術関係者と意見を交わす機会をつくるという。村井嘉浩知事は「十分な時間をかけて考える。現地改修と移転新築のメリットとデメリットを分かりやすく示して、丁寧に説明したい」と述べている。

 当初方針を堅持しつつ、「拙速」との批判を受けて歩み寄った格好だ。協議の場を時間稼ぎとその場しのぎに終わらせてはならない。広い視野に立って論じ合ってほしい。

 言うまでもなく、地方自治の主役は住民である。「民主主義の学校」と称される理由もそこにある。一般に行政は政策を立てる際、住民や関係団体などの声を聞き、市民参加の形で案を練り上げる。

 そのプランが、県民全体の公益や公共の福祉に鑑みて妥当かどうかを比較考量し、成案に近づけていく。いわば積み上げ型なのである。

 移転構想の経緯をたどると、大切なプロセスを欠いている。県はリニューアル基本計画を基に現地改修をしたとしても、建物の寿命を迎えて20~30年後に建て替える必要があると説明する。

 しかし、設計監理に携わった建築家は「当たり前の手入れをすれば今後50年、100年も大丈夫」と反論する。事前に見解を求めていれば、こんな根本のところで食い違いは生じなかったろう。

 議論する時間は十分にある。スタート地点に戻り、専門家の意見を積み上げた上で熟慮するよう望みたい。